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コラム MatsumoriMatsumori

フリーランスの「自由」という幻想|Web業界はそんなに甘くない

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「3か月で未経験からフリーランスへ」「好きな時間に、好きな場所で、好きな人と働けます」

こうした言葉を、この数年でよく見かけます。

もちろん、フリーランスという働き方には魅力があります。私自身、会社員を経て独立した人間なので、その良さは分かっているつもりです。

ただ、自由や高収入といったベネフィットばかりが先に立って、その裏側にある現実が、あまり語られていないように感じます。今日は少し厳しい話を、現場を通ってきた人間の本音として書いてみます。

「自由な働き方」という言葉が隠していること

空に「FREEDOM」の文字が飛行機雲で書かれている画像

フリーランスの広告や発信を見ていると、たいてい同じような言葉が並びます。働く時間も場所も自由。人間関係のストレスもない。しかも収入は上がる。こう言われれば、誰だって惹かれます。

けれど、よく考えてみてください。その自由は、誰でも最初から手に入るものなのでしょうか。

私が見てきた限り、答えははっきりしています。あの自由は、長い時間をかけて信頼と実績を積み上げた人が、ようやく手にしているものです。

売り文句は、そこに至るまでの過程をきれいに省いて、結果の部分だけを見せているのです。

実際、数字を見ても厳しさは表れています。国の調査をもとにした個人事業主のデータでは、開業から1年で約3割、3年で約6割が廃業し、10年後まで生き残れるのは1割ほどとされています。

フリーランスだけを抜き出した数字ではありませんが、独立して続けることの難しさは、ここからも伝わってきます。
(参照:ペイトナー「2005年度版 中小企業白書をもとにした廃業率データ」

この現実を踏まえたうえで、私が特に伝えたいことを、いくつか書いていきます。

「土日祝は休みます」が通用するのは、選べる側になってから

パソコンの前で作業をしている女性の写真

なりたてのフリーランスの方で、こういう発信をする人を見かけます。

「土日祝はお休みします」「稼働は平日の何時から何時まで」「その時間を過ぎたら、次の稼働まで返信しません」

働き方を自分で決める。一見、フリーランスらしい理想の姿に見えますが、正直に言うと私はこれを少し甘いと感じてしまいます。

誤解しないでください。働き方を自分で決めること自体は、何も悪くありません。問題は、それが「いつ成立するか」です。

働く時間や連絡のルールを自分で決められるのは、信頼と実績が積み重なって、自分が仕事を選べる側に回ったときの話です。厳しい言い方になりますが、自分ひとりで生活を成り立たせることもできないうちは、選ぶ側ではなく、選ばれる側にいます。

選ばれる側にいる段階で、先に条件だけを並べてしまう。これが、私には順番が逆に見えるのです。

もちろん、24時間365日フル稼働しろという話ではありません。体を壊しては元も子もないので、休むことは大切です。ただ、立ち上げの時期は、それくらいの気持ちで向き合わないと、なかなか前に進めない世界だということです。

10年の差は、並大抵の努力では埋まらない

危険マークで危険を表している画像

もうひとつ、参入のハードルについて、現実的な話をします。

たとえば、20歳でこの世界に入って、いま30歳になった人がいるとします。その人には、すでに10年分の実績と経験があります。一方で、30歳からまったく同じ業界に入る人は、スタートの時点で、その人と10年の差が開いています。

この10年の差を、後から並大抵の努力で埋められるか。私は、簡単なことではないと思っています。

もちろん、人それぞれ持っているセンスや、飲み込みの速さは違います。それによって、差が縮まる速度は変わります。中には、驚くほどの勢いで追い上げる人もいるでしょう。

それでも、先を行く人もまた、立ち止まっているわけではありません。後から入った人が追いつこうとしている間も、その人はさらに前へ進んでいます。だからこそ、後発で差を縮めるには、人並みの努力では足りないのです。

これは、やめておけという話ではありません。ただ、その差の大きさを甘く見積もったまま飛び込むと、思っていたのと違う、と早々に心が折れてしまいます。

最初に現実を知っておくことが、続けるための備えになります。

切羽詰まっていない環境が、成長を遅らせることもある

豪邸の自宅の内装イメージ

もう少し、踏み込んだ話をします。

なりたての頃から働き方をきっちり区切れる人には、ある共通点が見られることがあります。実家で暮らしている、あるいはパートナーに収入があるなど、衣食住に困らない環境がある場合です。

はじめにはっきりさせておきたいのですが、そういう環境そのものは、まったく悪いことではありません。むしろ恵まれた、ありがたい状況です。

問題は、その安心に甘えて、学ぶことや危機感を手放してしまうことです。生活が保証されていると、どうしても「今すぐ稼がなくてもいい」という空気が、自分の中に生まれやすくなります。

その緩みが、成長の速度を落としてしまう場合があるのです。

逆に言えば、その恵まれた環境は、本来とても強い武器になります。生活の不安が少ないぶん、目先のお金にならない勉強や、力をつけるための投資に、思い切って時間を使えるからです。

同じ環境でも、攻めの時間に変えられる人と、緩みに変えてしまう人がいます。その違いは、環境ではなく、向き合い方にあります。

フリーランスに教えてくれる人はいない

パソコンの前で悩んでいる女性の様子

そして、これがいちばん大きいかもしれません。フリーランスには、手取り足取り教えてくれる人がいません。

会社なら、先輩や上司がいて、研修もあります。学校なら、先生がカリキュラムを用意してくれます。けれど、フリーランスは会社でも学校でもありません。何を学ぶかも、どう成長するかも、すべて自分で決めて、自分で動くしかないのです。

仮に、自分で決めた業務時間内だけ働くとします。それ自体は構いません。ただ、その時間の中で手を動かしているだけでは、いつまでも同じ場所にとどまってしまいます。

稼働時間の外で、新しい知識を入れる。手を動かして試す。本を読み、技術を学び、世の中の動きを追いかける。こうした時間を、誰に言われるでもなく積み重ねていく必要があります。

正直に言えば、この見えない時間こそが、いちばん苦しいところです。会社員のように「定時で終わり」という区切りがなく、学び続ける時間がずっと続いていく。

その意味で、フリーランスは会社員よりも苦しい時間が長い働き方だと、私は感じています。

そもそも、あなたが欲しい「自由」とは何ですか

自由に働くノマドワーカーをイメージした女性の画像

ここで、少し視点を変えた話をします。そもそも、あなたがフリーランスに求めた「自由」とは、いったい何だったのでしょうか。

ただ楽をして稼ぎたい。それだけが目的なら、正直に言って、そんなに都合のいい世界はありません。お金のことを考えるうえで、一度知っておいてほしい考え方があります。

『金持ち父さん貧乏父さん』で知られるロバート・キヨサキが、「キャッシュフロー・クワドラント」という枠組みを示しています。

世の中の働き方を、収入の得方で4つに分けたもので、頭文字をとって「ESBI」と呼ばれます。
(参考:筑摩書房『改訂版 金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント ――経済的自由があなたのものになる』

ESBIを解説している画像
  • E(従業員)
    会社に雇われて給料を得る働き方
  • S(自営業者)
    自分のスキルやサービスを売る働き方。フリーランスはここに当たる
  • B(ビジネスオーナー)
    自分が働かなくても回る仕組みやチームを持つ働き方
  • I(投資家)
    お金に働いてもらって収入を得る働き方

このうち、EとSは「自分が働く」ことで収入を得ます。BとIは「仕組みやお金が働く」ことで収入を得ます。フリーランスは、自分の手を動かして稼ぐSの典型です。

ここに、見落とされがちな落とし穴があります。自由がほしくてフリーランスになったはずなのに、Sのままでは、本当の意味での自由には届きにくいのです。

自分が動き続けないと収入が止まるので、結局は時間に縛られます。働き方を選べる立場とは、まだ言えません。

では、Sのまま収入を伸ばそうとすると、どうなるか。自分ひとりの手では、こなせる量に限界があります。スケール(規模の拡大)も、レバレッジ(てこのように小さな力で大きく動かすこと)も効きません。

そこで多くの人が、ひとりの働き方を選んだはずなのに、「人を雇う」「人に任せる」という選択に行き着きます。

ところが、これが思うようにいきません。人を動かすことで、新しい苦労が始まるのです。

  • 業務委託は、フルコミットしてくれるとは限らない
    社員と違い、相手にとっては数ある取引先の一つ。熱量や優先度は、こちらの期待どおりにならないことがある
  • クオリティが安定しない
    人によって仕上がりにばらつきが出る。チェックや修正に、結局こちらの時間が取られる
  • そもそも、自分が安定していないと人に振れない
    自分の仕事が途切れがちな段階では、他人に回す余裕などない
  • 低単価には、低単価なりの人しか集まらない
    支払える報酬が低ければ、実績の浅い人しか集まりにくい。質を求めるほど、コストは上がる

人に任せれば楽になるはずが、人のことで疲弊してしまう。これは、Sの段階を駆け上がろうとする人が、よくぶつかる壁です。

誤解しないでほしいのですが、Sが悪いわけではありません。自分の腕一本で、小さく細々と、納得のいく暮らしができればいい。それも立派な、ひとつの正解です。

大事なのは、自分がどちらを望んでいるのかを、はっきりさせておくことです。

ただ、もし「もっと稼ぎたい」「時間の自由がほしい」と望むのであれば、いつか自分の手を動かすだけのSから、仕組みで動かすBへと、視点を移していく必要が出てきます。

そこを見ないまま走り続けると、いずれ苦しくなる時が来ます。あなたが本当に欲しい自由が、どの場所にあるのか。一度、立ち止まって考えてみてほしいのです。

それでも、本気なら道はある

パソコンの前で考えている女性の画像

ここまで、ずいぶん厳しいことを書いてきましたが、フリーランスになるなという話ではありません。

私自身、もともとは料理人でWebの世界には未経験から飛び込んでいます。だから、後から入る人が感じる差の大きさも、誰も教えてくれない心細さも、身をもって知っているつもりです。

ここに書いたことは、外から眺めた批判ではなく、自分も通ってきた道の話です。

そして、ここからが大事なところです。これだけ厳しさを並べてもなお、フリーランスという働き方には、確かな魅力があります。

頑張った分だけ、収入に上限がありません。会社員のように決まった給料ではなく、成果がそのまま自分に返ってきます。正しく外注化や仕組み化を進められれば、自分ひとりの限界を超えて、事業を伸ばしていくこともできます。

辛いのは、本当に最初の時期です。そこを越えて実力と信頼を積み上げれば、景色は変わります。よく言われることですが、勝つ人は勝つ人と組みます。

力をつけた先には、優秀な仲間や高単価のクライアントとつながる未来が待っています。うまくいけば、いった分だけ、いい景色が見えてくるのです。

甘い期待だけで入ってきた人は、たしかに続きません。けれど、現実を正しく知ったうえで、それでもやると決めた人には、ちゃんと道があります。

厳しさを覚悟している人ほど、いざ壁にぶつかったときに踏みとどまれるからです。

忘れてはいけない、たったひとつのこと

最後に、これだけは忘れないでほしい、というものを書きます。

自由になりたい。楽をしたい。その気持ちは分かります。けれど、働き方の話に夢中になるあまり、いちばん大事なことが抜け落ちてしまうことがあります。それは、自分が「誰に、どんな価値を提供しているのか」という視点です。

いま自分がやっているこの仕事は、誰のためになっているのか。直接のクライアントなのか、その先にいるエンドユーザーなのか。一度、立ち止まって考えてみてください。

お金が生まれる場所は、いつも決まっています。誰かの困りごとや、誰かの「こうなりたい」を解決したときに、その対価としてお金が生まれます。順番はいつだってそうです。価値が先で、お金は後からついてきます。

だからこそ、どんな働き方を選ぶにしても、これだけは大前提として持っておいてほしいのです。

自己都合や自己満足で働くのではなく、目の前の誰かに価値を届けるために働く。この軸さえ持っていれば、自由も、収入も、結果として後からついてきます。

本気でこの世界に向き合う人を、私は心から応援しています。もし一緒に走れる場面があれば、それはとても嬉しいことです。

AUTHOR

Matsumori

Matsumori

代表 / Webディレクター / マーケター

フレンチを中心に10年以上料理人として腕を磨いた異色の経歴を持つ。中小企業・個人事業主のマーケティング課題に、戦略設計から運用・改善まで一気通貫で伴走している。